騎士ゴードンの挑発に乗り決闘を受けたローナ、彼女は今七支刀を手に一人闘技場に立っていた。
「団長…本当によろしいのでしょうか?」
ギルバートに話しかける一人の女性騎士。
「ん、なんだい?」
「なんだじゃありませんよ、あのローナという少女のことです。」
「ああ…そういえばゴードンと決闘するとか言ってたね…」
「止めなくてよろしいのでしょうか?仮にもゴードンは第三部隊を仕切る立場であり実力もあります。彼女の実力はわかりませんが相手が悪すぎます。」
「キミは真面目だね、エメラルド。でも彼女の覚悟と実力はそんなもんじゃないよ」
「はあ?」
エメラルドと呼ばれた女性騎士は困惑する。相変わらず騎士団長は何を考えているのかわからない。
「君も見ておくといいよ。彼女の本当の実力…そして覚悟を。」
「…はあ。」
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「ほう小娘、逃げずに来たことは誉めてやろう。」
場面代わって闘技場。騎士団領でのローナはあくまでも『騎士団長が招いた謎の少女』という認識でしかなく、その実力は多くの人にとって未知数の存在。
それ故に大きな注目が集められており、騎士団各位やイルミナ市民まで集まっており闘技場は謎の賑わいを見せていた。
「…なんだか大事になっちゃったなあ…。」
「あのクララさん…やっぱローナさんを止めたほうがよかったんじゃないでしょうか?」
「私もできればそうしたかったけど…ローナの性格じゃどうにもならなかったでしょ…あの子変なとこで頑固だし…」
「それにゴードン隊長だって粗暴だけどしっかりとした騎士なのよ?ローナに大けがさせるような真似はしないと思うけど…」
「だといいんですが…」
ため息交じりで見守るクララと心配でおろおろするナタリー。
「…フフン、あの子ね。最近クララ先輩と一緒にいる女の子っていうのは。お手並み拝見といこうじゃない♪」
一方で遠くからオペラグラスでローナを観察する一人の少女がいた。アイドルのようなかわいらしい衣装に身を包み、ピンクのツインテールの派手な少女の姿だった。
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「では両者、準備はいいか?」
ギルバート団長が審判として、闘技場中央に立つ。両者に緊張が走る。
「…始め!!」
合図とともに戦いの銅鑼が鳴り響く。先に仕掛けたのはゴードンだ!
「沈めェェェェェェェェェェェェェい!!!」
踏み込みとともに、大斧を振り下ろした!ローナは素早くバックステップで回避。
「ほぉ…だが今のは軽い挨拶代わりだ。」
今度は斧を大きく水平に薙ぎ払う!すかさずジャンプで回避。
「そんな攻撃、当たりません!!」
「フフン…馬鹿め…」
ここまではゴードンの狙い通り、通常人間は空中では動きが制限される。飛ばせて落とす…落下を狙って一撃で決めるべく力を溜め始めた。
「終わりにしてやらぁ小娘ェ!!!!!!」
破壊力を込めた振り上げ!その余波で闘技場に衝撃波が走る!!
「そう来ると思ってました!!」
通常の人間は空中制御が効かない…そう、『通常の人間』での話。
覚えているだろうか?かつてアンタークで光の足場で海を渡りキーラの呪縛を解いたローナのことを。
母から受け継いだ強い神通力、叔父から10年間叩き込まれたイズモ式戦闘術の双方を持つローナにとってこの程度の対空攻撃をかわすことなど動作もなかった。
ローナは神通力で空中に光の板を作り出し、それを蹴ることにより軌道修正。高速でゴードンの側部に回り込み…一閃!!
「何…だと…!?」
神通力が流し込まれた七支刀の一閃により、ゴードンの鎧の左肩の部分が吹き飛んだ。
予想できない事態にゴードンを含む群衆が静まり返る。
「やはりな…しかし彼女の実力はこんなものではないはずだ。」
ギルバートが思わず嬉しそうにつぶやく。
「クララさん!これって…」
「見くびってたわね…ローナがあのゴードン隊長を圧倒しているだなんて…勝っちゃうんじゃないかな…?」
驚くナタリー、どことなく冷静なクララ。
「へぇ…なかなかやるじゃない」
そして余裕ぶっているツインテールの子。
「どうしました隊長?今のはほんの挨拶代わりですよ。」
ローナが剣を構えてゴードンを睨む。意図的に鎧の破壊を狙ったためかゴードンへの肉体的ダメージは無い、だがそれ以上に精神的ダメージが大きくなかなか硬直から動けない様子。
「てめェ…調子に乗りやがって…野郎ォぶっ殺してやらァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
ゴードンの叫びとともに猛烈な闘気があふれ出る。その闘気が衝撃波となり、闘技場に嵐を巻き起こした。
ローナは少し怯むもののすぐに剣を構えた。
「ウラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
雄たけびとともに踏み込み、突撃してきた!!
「速い!!」
咄嗟に七支刀で受け止める。
「なんて重さ…!早くどうにかしなきゃやられちゃう…!!」
「さっきはよくもやってくれたなクソガキ…騎士の誇りだのなんなの知ったこっちゃねえ…てめェを殺してやる…!!」
ゴードンのエネルギー。それは純然たる『怒り』と『殺意』からくるものであり、もはやそれは『騎士』ではなく『狂戦士』であった。
ゴードンの変貌に周りもざわつく。
「団長、このままでは危険です!ゴードンは本当にあの少女を殺そうとしています!!」
エメラルドがギルバートに試合停止を提案するものの、ギルバートはいたって冷静だった。
「いや…ローナには彼を止めてもらうよ。」
「しかし!!」
「いいかいエメラルド、ローナは『アマテラス女王陛下の娘』であり、いずれはもっと大きな存在になる少女だ。さっきの攻防を見ての通り彼女の実力は凄いだろう。だから問題ないよ。それに」
「それに?」
「この程度でやられてしまうなら、私の見る目が無かったということだ。」
謎理論で説明するギルバート。
「きゃっ!!」
「ウオラァァァァァァァァァァァァァァくたばりやがれェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
力押しに耐え切れず後ろに下がったローナ、その隙を狙い最大攻撃を狙うゴードン。斧を振り上げたそのときだった!!
「…見えた!!」
逆にその一瞬の隙を見逃さなかった!!神通力を使い、巻き起こる風圧と太陽の光を七支刀に集め、光と風のエネルギーを集中…。
「お母さん…力を貸して!!」
そのまま薙ぎ払って特大の衝撃波を叩きつけた!!
ブオンッ!!!!
「なんだその技は…聞いてねぇぞォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
ゴードンが空高く吹き飛び、鎧も砕け散った。そしてズドンと落下、診断結果:意識不明。
しかしローナも体力を使い過ぎたのか、息を切らしてその場に尻餅をつく。
「ふむ…決まったようだな…勝者、ローナ!!」
ギルバートのジャッジボイス、そして闘技場に歓声の渦が鳴り響いた。
「ローナ!」「ローナさん!」
「あ…クララ、ナタリー…」
近くで見ていた二人が駆け寄る。
「勝ったからよかったけどもうこんな無茶はしないでね?約束よ?」
「大ケガしたらどうしようって…心配したんですからね!!」
「うん…ごめんね二人とも」
かくして、イルミナを巻き込んだ大決闘はイズモからきた謎の少女ローナの勝利で幕を閉じ、ローナの名はエリシオン中に広まってしまったのだった。
つづく。